「最近、親の様子が少し変わってきた気がする」
物忘れが増えた。
同じものを何度も買っている。
今まで普通にできていたことが、少しずつできなくなってきた。
でも、まだ「介護」と呼ぶほどではないような気もする。
私の親の介護も、そんな小さな「あれ?」から始まりました。
母の物忘れが増え、冷蔵庫には同じものがいくつも入るようになりました。
生協から商品が7箱も届いたこともあります。
一円玉がたくさんたまっていたり、お正月には注文した3段重のおせちが2つ届いたり。
母は笑っていましたが、私は少しずつ、
「何か今までと違う」
と感じるようになりました。
一方で、私は小学校教員としてフルタイムで働いていました。
学校へ行けば授業があります。担任をしていれば、目の前には毎日子どもたちがいます。
親のことが心配だからといって、簡単に仕事から離れられるわけではありません。
そして介護が始まると、病院への付き添いだけではなく、役所での手続き、ケアマネジャーとの連絡、介護サービスの調整、買い物、食事、お金の管理……と、やることが次々と増えていきました。
この記事では、私自身の経験を振り返りながら、親の介護が始まった教員が、仕事を辞める前にやっておきたい7つの準備をまとめます。
① 親の「できなくなってきたこと」を書き出す
最初から、
「認知症なのだろうか」
「もう介護が必要なのだろうか」
と答えを出す必要はないと思います。
まず確認したいのは、
「以前と比べて何が変わったのか」
です。
たとえば、
- 同じものを何度も買う
- 食事の準備が以前と違う
- 薬をきちんと飲めなくなった
- 病院へ一人で行くのが難しくなった
- ゴミ出しが難しくなった
- お金の管理が難しくなった
- 家の中で転びそうになる
- 急に怒ることが増えた
などです。
わが家の場合も、最初は冷蔵庫の中身や買い物、料理など、日常生活の小さな変化でした。
「まだ大丈夫」と思う時期こそ記録する
気になったことは、スマホのメモなどに残しておくと役立ちます。
- いつ起きたのか
- 何があったのか
- 以前と何が違ったのか
- 本人はどんな反応をしたのか
このくらいで十分です。
家族で話すときだけでなく、病院や地域包括支援センターへ相談するときにも説明しやすくなります。
② 家族・きょうだいで早めに情報を共有する
親の介護では、近くに住んでいる人や動きやすい人に負担が集中しがちです。
でも、介護がどのくらい続くのかは分かりません。
だから早い段階から、
「今、親に何が起きているのか」
を家族で共有しておくことが大切です。
できれば、誰が何を担当するのかも話しておきます。
- 病院への付き添い
- 買い物
- 役所の手続き
- ケアマネジャーとの連絡
- 介護サービスの調整
- お金や書類の確認
- ネットでの注文
全員が同じ量を担当する必要はありません。
遠くに住んでいてもできることはあります。
大切なのは、
誰か一人だけが「介護の担当者」にならないこと。
介護が本格化する前から情報を共有しておくことが、その後の負担を減らすことにつながると思います。
③ 「ちょっと心配」の段階で地域包括支援センターに相談する
「親のことが心配。でも、どこへ相談すればいいの?」
私たち家族も、そこから始まりました。
私は妹と一緒に地域包括支援センターへ相談に行きました。
母の物忘れや生活の変化について話すと、まず、かかりつけ医へ相談するよう勧められました。
ところが、かかりつけ医では認知症検査を行っていませんでした。
そこで紹介状を書いてもらい、別の医療機関を受診することになりました。
「これで検査を受けられる」
と思いました。
ところが、母は断固拒否しました。
父と一緒に検査を受けようと何度話しても拒否。
逆に父を心配して、
「私は大丈夫」
と言うのです。
結局、地域包括支援センターへ初めて相談してから、母が認知症検査を受けるまで約3年かかりました。
相談すればすぐ解決するとは限らない
介護を経験して分かったのは、
- 相談すればすぐサービスにつながる
- 病院を紹介されたらすぐ受診できる
- 家族が勧めれば本人が納得してくれる
とは限らないということです。
本人にも気持ちがあります。
だからこそ、困りきってからではなく、
「ちょっと気になる」段階で相談先とつながっておく。
これは、とても大切だったと感じています。
④ 「家族がやらなくてもいいこと」を増やす
介護が始まると、
「買い物くらい私が行けばいい」
「ごはんくらい用意してあげよう」
「病院には家族が連れていかなくちゃ」
と思ってしまいがちです。
一つひとつは小さなことでも、フルタイムで仕事をしながら毎週、毎月続けていくと、大きな負担になります。
私たちも最初からうまくサービスを利用できていたわけではありません。
親の状態が変わるたびに、
最初は「家族がやった方が早い」と思っていました。
でも、介護はいつまで続くか分かりません。
家族にしかできないことと、サービスに任せられることを分けることで、少しずつ負担を減らすことができました。
「これは家族がやらなくてもいいのでは?」
と考えて、一つずつ利用するものを増やしていきました。
わが家で実際に利用したサービス・工夫
| サービス・方法 | こんなときに利用 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|---|
| ネットスーパー | 買い物に行くのが難しくなった | 私がスマホで注文し、親の家で受け取ってもらえる。仕事帰りに買い物へ行く回数を減らせた | 親から必要な物を聞く必要がある。受け取りが難しくなることも |
| 生協などの宅配 | 食品や日用品を定期的に届けてほしい | 重い物も自宅まで届けてもらえる | 1週間先を見越して注文するのが難しくなることがある。重複・大量注文にも注意 |
| 宅食サービス | 昼食などを自分で準備するのが難しくなった | 食事を作ったり家族が届けたりする負担を減らせる | 冷凍の場合は電子レンジ操作が必要。「届く=食べられる」とは限らない |
| Amazon定期便(オムツなど) | オムツなどの介護用品が定期的に必要 | まとめて届く。重くかさばる物を運ばなくてよい。定期的に届くので安心 | 使用量が変わると余ったり足りなくなったりする。数量や配送間隔の見直しが必要 |
| ゴミの個別収集 | ゴミを集積所まで運ぶのが難しくなった | 親が重いゴミ袋を運ばなくて済む | 家族による分別準備が必要な場合がある。対象条件などは自治体によって異なる |
| 福祉タクシー | 通院・転院などの移動が難しくなった | 家族の送迎負担を減らせる。乗り降りが難しい場合にも利用しやすい | 費用や予約が必要。助成制度などは自治体によって異なる |
| 手すりの設置 | 玄関・廊下・浴室などで転倒が心配 | 転倒予防になり、自宅で生活しやすくなる | 介護保険を利用する場合は、工事前にケアマネジャーなどへの確認が必要 |
| 手押し車などの福祉用具レンタル | 歩行に不安が出てきた | 購入せず、状態に合わせて利用できるものがある | 介護保険の対象品目や利用条件がある |
| 新聞の購読をやめる | 古新聞をまとめたり回収に出したりするのが負担になった | ゴミが減り、新聞を束ねて出す作業もなくなる | 本人の楽しみでもあるので、本人の希望を確認する |
サービスを使えば、それで終わりではなかった
実際にいろいろ利用してみて分かったのは、
「便利なサービスを使えば、介護の問題がすべて解決するわけではない」
ということでした。
たとえば、生協の宅配はとても便利でした。
でも母の認知機能が低下すると、「1週間先に何が必要か」を考えて注文すること自体が難しくなり、大量の商品が届くこともありました。
宅食も同じです。
食事を届けてもらえば安心だと思っていましたが、冷凍のお弁当を自分で電子レンジに入れて温めることが難しくなっていきました。
「届くこと」と「本人が使えること」は別なのだ
と気づきました。
「自動的に届く仕組み」は仕事をしている家族には助かった
一方、オムツなどの介護用品はAmazonの定期便を利用しました。
オムツはかさばるので、まとめて買って持ち帰るだけでも大変です。
それが、
必要な量をまとめて届けてもらえる。
しかも定期的に届く。
これだけで、「オムツを買いに行く」という用事を一つ減らすことができました。
仕事と介護を両立していると、この**「一つの用事をなくす」ことの積み重ね**が大きかったように思います。
「増やす」だけでなく「やめる」ことも考える
介護というと、
「どんなサービスを追加しよう?」
と考えがちです。
でも、わが家では今までやっていたことをやめることも負担軽減につながりました。
その一つが新聞です。
両親は2紙購読していましたが、新聞が毎日届けば、
- 古新聞をまとめる
- 紐で束ねる
- 回収日に出す
という作業も発生します。
それが難しくなってきたため、購読をやめました。
「何をしてあげるか」だけではなく、「何をしなくて済むようにするか」
という視点も、介護では大切だと思います。
困りごとは具体的に伝える
ケアマネジャーなどに相談するときも、
「何か便利なサービスはありませんか?」
だけではなく、
「ゴミ出しができなくなりました」
「昼食を自分で準備できません」
「通院のたびに仕事を休むのが難しいです」
など、具体的に困っていることを伝えると、利用できる制度やサービスを提案してもらいやすくなります。
大切なのは、
「どのサービスが一番いいか」ではなく、今の親と家族の困りごとに合っているか。
親の状態が変われば、必要なサービスも変わります。
一度決めたら終わりではなく、その時々で見直していくことが必要だと感じました。
⑤ 親が判断できるうちに「お金・銀行」のことを確認する
介護が始まったとき、意外と後回しになりやすいのがお金のことです。
でも親が銀行へ行くことが難しくなったり、お金の管理が難しくなったりすると、
- 銀行口座
- 公共料金
- 保険
- 税金
- 日常の支払い
- 各種契約
などにも影響します。
銀行の代理人制度を確認しておく
わが家では、銀行で家族が代理人として手続きできる仕組みについても確認しました。
金融機関によっては、本人が判断できるうちに代理人を届け出たり、代理人用のカードなどを利用できたりする場合があります。
ただし、
- 制度の名称
- 代理人になれる人
- できる取引
- 必要な書類
- 本人の来店が必要か
などは金融機関によって異なります。
そのため、利用している銀行へ直接確認することが必要です。
大切なのは、
本人が自分の意思を伝えられるうちに確認しておくこと。
介護が必要になってからでは、本人に確認したくても確認できないことがあります。
元気なうちに「どの銀行を使っているか」「何の支払いがあるか」を一緒に整理しておくだけでも、いざというときの負担は大きく変わります。
判断能力が低下してからでは、利用できる手続きが限られることもあります。
▶親の介護と成年後見制度|申立手続きから後見人の役割までわかりやすく解説
⑥ 教員は「休みたいときにすぐ休めない」
親の介護と仕事の両立は、どんな仕事でも大変だと思います。
その中でも私自身が教員として介護を経験して感じたのは、
教員には「休みたいときにすぐ休めない」難しさがある
ということでした。
教員は基本的にフルタイム勤務です。
さらに担任をしていると、
「明日は親の病院なので休みます」
と言って、それだけで仕事から離れられるわけではありません。
担任をしていると、自分が休むためにも準備が必要です。
授業の進め方や子どもたちへの指示、代わりに入ってくださる先生への引き継ぎなど、「休むための仕事」が増えてしまいます。
親のことが心配でも、学校のことを考えずにはいられませんでした。
私が感じた「教員が休みにくい理由」
- 担任が休む場合、代わりに授業を担当してもらうための計画や教材など、事前準備が必要になる
- 急な保護者対応が必要になると、ほかの先生に簡単にはお願いできない
- 保護者面談はあらかじめ日程が決まっているため変更しにくい
- 授業中は子どもたちから離れられず、管理職に介護について相談する時間を作りにくい
- 運動会、授業参観、遠足など、かなり前から予定されている学校行事の日は休みにくい
- 自分が休めば、ほかの先生に負担をかけてしまうと考えてしまう
つまり、介護のために1日休むとしても、
「休暇を取れば、それで終わり」ではありません。
休むための準備をする。
だからこそ、介護が本格的に始まる前から、管理職に家庭の状況を少しずつ伝えておくことも大切だと感じています。
「まだ休む必要はないから」と一人で抱えず、早めに相談しておくことで、いざというときに話をしやすくなります。
授業を引き継ぐ。
必要なことを同僚へ伝える。
復帰したら、その後の対応をする。
私には、
「休むための仕事まで増えている」
ように感じることがありました。
⑦ 「使える制度を知らない」まま退職を決めない
もう一つ私が困ったのが、教員が利用できる休暇や休業制度の分かりにくさでした。
親の介護で休みたいと思っても、
- 年次有給休暇を使うのか
- 介護休暇を利用できるのか
- 介護休業とは何が違うのか
- どんな場合が対象なのか
- 何日利用できるのか
- 給与はどうなるのか
- どこへ申請するのか
など、分からないことがたくさんありました。
制度は「ある」だけでは使えない
私の場合、
「親の介護が始まったら、この制度が利用できます」
と一覧になった分かりやすい資料が、あらかじめ教育委員会から手元に配布されていたわけではありませんでした。
必要になってから、一つずつ確認することになりました。
また、管理職に相談しても、介護に関係する制度をすべてすぐに確認できるとは限らないと感じたこともあります。
教職員の休暇や勤務条件には、法令や条例などに基づくもののほか、労使間の交渉などを通じて整備・改善されてきた制度や運用もあります。
教職員組合などから情報を得られる場合もあります。
だから、
「制度がない」のではなく、「自分が使える制度があることを知らない」
ということも起こります。
親の介護が始まったら、
- 管理職
- 学校の事務担当
- 教育委員会・任命権者の担当部署
- 自治体の条例・規則や休暇制度の資料
- 必要に応じて教職員組合
などから、自分の勤務先で実際に利用できる制度を確認することをおすすめします。
制度や運用は自治体などによって異なる場合があります。
▶教員の介護休業と介護休暇の違い|どちらを使えばいい?親の介護で退職する前に知っておきたい制度
▶教員の介護休暇制度をわかりやすく解説|仕事を辞める前に知っておきたい制度と活用法
それでも難しいなら「働き方を小さくする」選択肢もある
制度やサービスを使っても、フルタイムの教員と介護を両立することが難しい場合もあると思います。
私も、
「続ける」か「辞める」か
という二択で考えていた時期がありました。
でも、退職することと、教員として働くことを完全にやめることは同じではありません。
フルタイムを辞めても、教員経験を生かして働ける
たとえば、自治体などによって名称や任用方法は異なりますが、
- 非常勤講師
- 時間講師
- 会計年度任用職員などの教育関係の仕事
という働き方もあります。
「フルタイムでは介護との両立が難しい。でも学校では働き続けたい」
という気持ちがあるなら、退職を決める前に管理職へ相談してみるのも一つの方法です。
非常勤講師などの仕事について情報を得られたり、次の勤務先を探す際の相談につながったりする場合があります。
教育委員会の担当部署にも、
- どんな働き方があるのか
- 勤務日数・時間はどのくらいか
- 登録や募集はいつ行われるのか
- 給与はどうなるのか
- 社会保険はどうなるのか
などを確認しておくと安心です。
大切なのは、
「今までと同じようにフルタイムで働く」か「仕事を完全に辞める」かの二択にしないこと。
たとえば、
制度を使ってフルタイムを続ける
↓
家族やサービスに頼る
↓
働く時間や日数を減らす
↓
非常勤など別の形で教員経験を生かす
↓
それでも難しければ、教職以外の働き方を考える
という考え方もできます。
▶教員が親の介護で退職する前に考えたい5つのこと|後悔しないための準備と制度
ここから、退職後の働き方やセカンドキャリアについて考えてもいいと思います。
私が一番大変だったのは「介護そのもの」だけではなかった
介護を始める前の私は、
「必要になったら介護サービスを利用すればいい」
くらいに考えていたように思います。
でも実際は、そんなに単純ではありませんでした。
親の状態は変わります。
昨日までできていたことが、少しずつできなくなることもあります。
サービスを申し込めば、それで終わりでもありません。
そして、私が想像していた以上に大変だったのが、
「介護そのもの」と「仕事」の間をつなぐこと
でした。
病院。
役所。
ケアマネジャー。
介護サービス事業者。
学校。
それぞれとの、
- 電話
- 書類
- 申請
- 日程調整
- 打ち合わせ
- 学校を休むための準備
があります。
親の介護のために仕事を休みたい。
でも、休むためには学校で準備をしなければならない。
仕事を休んだ日は、病院や役所を回る。
家に帰ったら、また次の連絡や手続きをする。
私も、
「あと何回、仕事を休めばいいんだろう」
と思うことがありました。
だから今、介護が始まったばかりの頃の自分に声をかけるなら、
「全部、自分たちだけでやらなくてもいいよ」
と言いたいです。
まとめ|「続ける・辞める」の二択にしない
親の介護が始まったら、まず次の7つを確認してみてください。
- 親の「できなくなってきたこと」を書き出す
- 家族・きょうだいで早めに情報を共有する
- 「ちょっと心配」の段階で地域包括支援センターへ相談する
- サービスを使って「家族がやらなくていいこと」を増やす
- 親が判断できるうちに、お金や銀行のことを確認する
- 教員特有の「休みにくさ」を踏まえて早めに準備する
- 自分が利用できる休暇・休業制度を調べる
そのうえで、これからの働き方を考えます。
介護が始まったからといって、すぐに退職を決める必要はありません。
制度を使って続ける方法もある。
家族やサービスに頼る方法もある。
フルタイムを辞めても、非常勤などで教員経験を生かす方法もある。
そして、それでも難しければ、教職以外の新しい働き方を考えることもできます。
「家族だから自分たちで」
「担任だから休めない」
「周りに迷惑をかけたくない」
と一人で抱え込む前に、まず使える制度やサービス、働き方の選択肢を一つずつ探してみてください。
親の人生も大切です。
でも、介護をする自分の人生も続いていきます。
全部を自分でやらないこと。
そして、「続ける・辞める」の二択だけで考えないこと。
それが、私が親の介護と教員の仕事を経験して、今伝えたいことです。


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